この本は、物事の計画の技術を身につけるのにぴったりの本です。特に計画通りに何も進まない場合には一読の価値ありです。表紙のデザインなどはかなり控えめですが、中身はしっかりとしており、内容が充実しています。 まずは、なぜ計画が重要なのかが説明されます。全体像の理解が重要です。それを把握してこそ、その中にあるそれぞれの要素の意味が明らかになります。 また、計画が失敗する際の典型的な問題も羅列されています。複数挙げられていますが、中でも、個人的に注目すべきだと思うのは、この二つです。 計画が失敗する二つの典型例 (1)細かいだけで、実行イメージがわかない 例えば、1日単位でやるべきことが規定されているものの、そこまでは占い師でもあるまいし、わかりません。そんな決め方をしても、実際の行動がイメージできないだけです。 (2)いつもあとから「これもやらなきゃ」が出てくる これの問題は、作業の流れがわかっていないことが原因です。その結果として、質の検証作業が省かれることになることが多々あるらしいです。そして、待ちが増えるのも典型例です。 問題点の理解についてはこれくらいにしておいて、肝心な計画の技術についてです。特に素晴らしいなと思ったのがこちら。「積み上げ」についてです。 「積み上げ」ながら計画することの危険性 私たちは、仕事を「積み上げ」て考えることに慣れてしまっている、という指摘です。これの何が問題かというと、この方法では、「すでに過去にやったことがある何か」しか機能しないとのこと。 たしかに、これを読んでいて思い当たる節がありました。経験のあるプロジェクトでは、確かにうまくいくかもしれません。しかし、プロジェクトは普通、新しい何かへの挑戦です。 「積み上げ」とはつまり、1をやったら次は2をやってという思考回路です。これは経験したことのある、手順のわかっていることにしか使えません。 これの解決策は、アウトプットを明確にすることです。手順を「積み上げて」いくのは、なんとなく「それらしい」計画を立てることができてしまいます。だから厄介です。 アウトプットの定義とそこからの逆算 これを回避するには、まずはアウトプット(つまりゴール)を見据えて、そこから遡り考えること。 ガントチャートについても、的を射た説明があります。ガントチャートは重要視されていません。私はこれをよく使うので、少し衝撃を受けました。実際、プロジェクトの管理に使っているほどです。 しかし、この本の著者曰く、あくまでも作りたい人が作ればいい程度のものとされています。 さらに話は続き、今度は、実際にどのように逆算的に計画していけるかについてです。 プロセスとインプットとアウトプット 私が特に印象に残っているのは、プロセス、インプット、アウトプットの関係です。この三つの概念の関係を正しく理解することが重要です。基本ではありますが、整理しましょう。 プロセスとは、物事を処理すること、あるいは加工することを意味します。つまり、何かしらの作業です。これには素材が必要になります。それがインプットです。そして、その結果としてできあがるのがアウトプットです。 つまり、「インプット」→「プロセス」→「アウトプット」という流れになります。これが基本です。 ここまでを踏まえて、こう考えます。 最終的にどんな成果物をつくりたいのか。その成果物を分割します。 成果物で考えて分割する あくまでも物で考えるのがポイントです。 すると、いくつもの成果物が列挙できます。続いて、その成果物同士の関係を整理します。 例えば、成果物Bをつくる(プロセス)ためには、素材A(インプット)が必要といった具合です。 プロセスと成果物がセットになる 先の処理を繰り返していくと、自然と、「プロセス→成果物→プロセス→成果物」の連鎖ができます。これを図にプロットします。 そのようにしてできあがった図が、プロセス・フロー・ダイアグラムと言われるもので、これがあれば、ガントチャートは必ずしも必要ではなくなります。 というのも、上記のダイアグラムが全体像を把握する地図のような役割を果たします。そして、これを踏まえて、(日付やかかる時間を特定するために)ガントチャートを活用することができます。そんな依存関係になります。 さいごに この本での一番の学びはなんといっても、手順の積み重ねで計画をしないことです。これでは漏れがいくらでも発生する可能性があり、それに気づかないことも多々あります。 代わりに、成果物を考えること。成果物とは例えば「市場調査レポート」のような形のある(例えデジタル媒体でも)ものです。そして、その成果物をつくるために、どんなプロセスや材料(インプット)が必要かを考えます。 「市場調査レポート」と一口に言っても、それは「競合分析」であったり「ペルソナ」であったり、具体的にはいろんな項目で構成されることが予想されます。※実際には「競合分析シート」など、明らかに「成果物」であることがわかるネーミングにして整理することを個人的にはおすすめします。 それぞれに対して、どんなプロセスや材料(インプット)が必要かを考えて、これを繰り返すということです。本書では、実際には、成果物の要素をどんどん細切れにする作業を先に行なっていますが、大まかな概念はこれでぶれないはずです。